【2010年8月16日〜8月22日】


■パキスタン人、タリバン指導者逮捕の動機を語る[100822 New York Times]

米国人とパキスタンの工作員が、タリバンの地域司令官だったアブドゥル・ガニ・バラダールを1月にカラチで逮捕した際、両国はテロとの戦いに関して、両者の関係が向上したことを賞賛した。

しかしバラダールの逮捕には、興味深い経緯があった。両国の関係者とも、バラダールの逮捕は偶然だったという。逮捕した数日後に、その身元が初めて判明した。

逮捕から7ヵ月たった今も、パキスタンの関係者は別の話をする。バラダールを逮捕するために、CIAに協力させたという。なぜならアフガン政府がバラダールと極秘に対話をして、パキスタンを除外しようとしていたために、これを妨害しようとしたというのだ。

バラダール逮捕から数週間たったあと、パキスタンの治安関係者が全部で23人のタリバン指導者たちを逮捕した。その多数が、これまで政府の保護を受けていた。こうして話し合いは中断した。

バラダール逮捕の背後には、数ヵ月にわたって軍と諜報組織との間で論争があった。あいまいな点も多く、ワシントンの米関係者が否定する事柄もある。しかしイスラマバードで入手した情報によると、パキスタンがタリバンに影響力を発揮し、アフガニスタンの戦後の地位を獲得しようと画策している事実が明らかになる。

「彼らが我々抜きで取り引きをしようとしたために、バラダールを逮捕した」と、あるパキスタン人治安関係者が述べた。「我々はタリバンを保護する。彼らは我々に従属している。彼らがカルザイやインド人と取り引きすることは許さない」。

米関係者の中には、パキスタンとアメリカの関係が向上していることを主張し、パキスタンが中心になってバラダールを逮捕したことを否定する。パキスタンは歴史を書き換え、自分たちが影響力を発揮している印象を与えようとしていると語る。

「彼らは作り話をしている」と、米関係者が述べた。「地上の作戦に関与していた人間は、現場に到着した際、誰がいたか知らなかった。後になってパキスタン人と米国人は、逮捕した者の身元かがわかったのだ」。

別の米関係者は、和平のための話し合いを妨害するという大きな目的のために、パキスタン人がCIAを利用したのではないかと疑う。

(中略)NATO関係者によると、バラダールやその他のタリバン指導者の逮捕は、パキスタン人はオバマの戦略の成果を見るための時間稼ぎと見る。もし成果が上がっていれば、パキスタン人たちはタリバンが取り引きをすることを許す可能性がある。しかしアメリカが失敗して撤退を始めれば、パキスタン人たちはタリバンを仲間として縛り付ける。「これまでも欺かれてきた。パキスタン人たちは、話し合いの早さをコントロールするためにバラダールを逮捕したという可能性は大きい」。

現在バラダールは、パキスタンの諜報組織の隠れ家で快適に暮らしていると、パキスタン人関係者が述べた。「くつろいでいる」という。

他のタリバン指導者多数は、和平の取り引きに関する講義を受けたあと、再び戦うために釈放された。

なぜパキスタンのISIがアフガンの和平のための話し合いに神経質になったのかは、明らかではない。結果的には、国家の利益のためと被害妄想のためだったようだ。

あるアフガン政府関係者によると、去年の終わりから、アフガン政府はタリバン指導者多数と取り引きを打診し始めた。その中にバラダールと、もう1人のタリバン指導者タイーブ・アガがいた。カルザイ大統領の弟のアフマッド・ワリ・カルザイは1月にバラダールと会ったと、元アフガン政府や元NATO関係者が語る。カルザイの弟は、これを否定している。

これとは別に、当時アフガニスタンの諜報組織責任者だったエンジニア・イブラヒムがドバイでタリバン指導者の一団と会ったと、この件に関して詳しい著名なアフガン人が述べた。イブラヒムは現在国家安全委員会の責任者であるが、この件に関してコメントしていない。

タリバン首脳陣に近いパキスタン人の宗教指導者が語ったところによると、今年の初め、ある仲介者を通じて、カルザイが和平に関して話し合いたがっていると伝えられたが、「我々はそれを拒否した」という。

バラダールなどのタリバンとの話し合いは、まだ初期の段階だったが、結果が期待できそうだったと、アフガン人関係者が述べた。彼らの目的は、正式な話し合いを始めるための条件を確立することだった。「話し合いの始まりだった。だから両陣営とも極端な条件を出していたが、平和がもたされることを感じていた」。

パキスタンの諜報組織がこのことを嗅ぎつけると、アフガン人たちが自分たち抜きで話し合いをしようとしていると見て、神経質になった。特にISIは、米国人がお膳立てをしていると見た。

バラダールが逮捕される数日前の1月、あるISI関係者が『ニューヨーク・タイムズ』に、米国人たちと接触しているために、タリバン指導者を追跡していると語った。ISIは、米国人はパキスタンが当然考えるべき治安の問題を無視していると、非難した。「我々はバラダール師を追っている」と、ISI幹部が語った。「米国人たちが、彼と接触していることを強く疑っている」。

別のISI関係者も、和平のための話し合いが結実することを恐れ、これを妨害することにしたと語った。「国家の問題だ。米国人と英国人が我々の背後で動いている。これを許すことはできない」。米国人も英国人も、タリバンとの話し合いに直接関与していることを否定した。

バラダール師の逮捕が決まると、カラチのタリバン指導者が追跡された。パキスタン人関係者によると、ISIはバラダールが携帯電話を使うのを待っていたという。数日後に電話が使用され、組織はバラダール師の居場所を、人口が過密した2平方マイルに特定した。諜報組織のテクノロジーでは、これが限界だったという。バラダールの居場所を特定するために、ISIはCIAを利用した。

2001年以来、CIAとISIの関係は微妙だった。多数の合同作戦を実施し、数十人の過激派を逮捕したが、ISIがタリバンを保護していることでたびたび衝突した。

バラダールの電話が使用された数分後、CIAは2人の米国人技術者をパキスタンのISIのチームに派遣した。追跡機を使用して、CIAとISIをバラダールの家に導いていった。携帯電話が使用された4時間後に、バラダールは逮捕された。ISIは、標的の身元を米国人に明かさなかった。

米関係者はこの話を否定し、諜報情報から標的がバラダールと関係していることは知っていたと述べた。しかし逮捕後まで、身元はわからなかった。

パキスタン人は、CIAにバラダールの取り調べや取り調べに同行することを拒否した。別のパキスタン人関係者によると、バラダールはイスラーマバードの隠れ家に連れて行かれ、取り調べを受けたという。CIAに身元が明かされ、取り調べることが許されたのは数日後のことである。

パキスタン人関係者は、CIAの無恥を笑いものにさえした。「彼らはまったく無実だ」。

ある米関係者は、CIAはパキスタン人が逮捕しようとしている者の身元を知らなかったが、パキスタン人だって知らなかったと語った。パキスタン人がバラダールを逮捕したあと、和平の話し合いを妨害することに決めたという。他のタリバン指導者たちの逮捕も、このときに決まった。「バラダールが逮捕されたのは、それが理由だとは思っていない」と米関係者がアフガンの話し合いに言及して語った。「拘束されたのは、そのためかもしれないが」。

しかし別の米関係者は、パキスタンの話はCIAの話よりも信憑性があるという。「バラダールはあまりにも有力者だ。逮捕するまで身元がわからなかったはずはない」と、NATO関係者が述べた。

バラダールが逮捕された数日後、パキスタンの組織は22人のタリバン指導者を各地で逮捕した。カユーム・ザキール師、アブドゥル・カビール師、アブドゥル・ラウフ・ハデムも含まれている。「どこに陰の州知事が存在しているか知っている」と、パキスタンの治安関係者が述べた。

関係者によると、逮捕されたタリバン指導者たちは、今後自分たちの許可なくしてアフガニスタンの話し合いに参加してはならないと警告された。ある元欧米外交官によると、ISIはタリバンにこのことを警告したと語った。「ISIからのメッセージは、目立つ行動をしてはならない、ということだった」。

タリバンに近いアフガン人関係者によると、バラダール他の逮捕は、タリバンとISIとの関係悪化を示すという。ISIはタリバン指導者を保護するかもしれないが、彼らの自由も制限しているという。「我々が行動しようとすると、彼らは妨害する」と、パキスタン人宗教指導者が述べた。

それ以来、逮捕された多数のタリバン指導者が釈放された。2006年にグアンタナモから釈放されたタリバン司令官のザキールも、その中に含まれる。

ザキールはバラダールの後継者になった。彼はバラダールよりも残虐で、一般市民に犠牲者が出ることに無関心だという。カルザイ政府との話し合いにも、無関心である。

smellPakistanis Tell of Motive in Taliban Leader's
DEXTER FILKINS、ISLAMABAD

■パキスタン北西部で米無人偵察機の攻撃。6人殺害[100821 AP]

土曜日にパキスタンの部族地帯に対するアメリカの無人偵察機によるミサイル攻撃があり、過激派6人が死亡した。

北ワジリスタンのミランシャー近くのアンガール・カーラ村で、車2台にミサイルが撃ち込まれた。

これとは別に土曜日、親政府系部族民が設置した検問所で爆発があり、6人が死亡した。現場はモーマンド部族地帯である。

警察官と通行人が1人ずつと、和平委員会のメンバー4人が犠牲になった。

hoonUS drones kill 6 in northwest Pakistan
MIR ALI、RASOOL DAWAR

■米、クナールのタリバン系サラフィー組織を攻撃[100819 Longwar Journal]

昨日クナール州でアフガンと同盟軍が、これまであまり知られていなかったサラフィー派テロ組織の人間3人を殺害した。

タリバンの枝組織ジャマート・ウル・ダーワ・アル・クルアーンのメンバー3人が、「クナール州で攻撃やプロパガンダ・キャンペーンを行なっていた司令官」を標的にしたアフガンと同盟軍との合同軍に殺害されたと、ISAFが発表した。取り締まりがあったのは、ピーチ谷のシャムン村である。

ジャマート・ウル・ダーワ・アル・クルアーン(JDQ)の司令官は、「米関係者2人をロケット手榴弾で殺害し、この他数人を負傷させた事件など、アフガン軍と同盟軍を狙ったいくつかの攻撃に直接関与していた」という。

JDQは、クナール、ヌーリスタン、ナンガルハルなどで活動する、パキスタンのラシュカレ・タイバのフロント組織、ジャマート・ウッダーワとは関係ないという(中略)。この組織の別名はジャマート・ウッダーワ・イル・アル・クルアーン・アル・スンナともいわれ、サラフィー組織である。「組織はアフガニスタン東部のタリバンと一緒に行動している」と、ISAF関係者が述べた。

「両組織ともアール・アル・ハディース・サラフィー組織であるが、パキスタンのジャマート・ウッダーワとは関係ない」という(中略)。「ただし両組織はクナール州で活動するときには、お互い協力し合っているかもしれない」。

JDQは2010年にタリバンと一体化し、2010年にオマール師に忠誠を誓った。1月9日にタリバン報道官が、JDQがタリバンと一体化したことを正式に発表した。「クナール州のサラフィー・タリバンという名目でジハードを行なっていたアフガニスタンのジャマート・アル・ダーワ・イライ・アル・スンナーは、アフガニスタンイスラーム首長国に協力することになった」と、ムジャーヒッドがタリバンの公式ウェブサイトの『ジハードの声』に発表した。

「この組織の責任者であるハッジ・ハヤートゥッーラー他のメンバーが、オマール師に忠誠を誓った(中略)。今後クナール州のムジャヒディンは、イスラーム首長国の指示にしたがってジハードを行なう(中略)」という。

(中略)JDQのメンバー3人が、グアンタナモ収容所に拘束されている。親タリバン系新聞で仕事をしていた「詩人」でジャーナリストのアブドゥル・ラヒーム・ムスリム・ドストは、2005年にパキスタンに引き渡された。2008年にパキスタン政府は、駐アフガニスタンのパキスタン大使タリーク・アジズッディンの解放と引き換えに、ドストを釈放した。JDQの幹部メンバーのサヒーブ・ロフッラー・ワキールはパキスタン政府と近い関係にあり、2001年にアルカイダがアフガニスタンからパキスタンに逃走する際に、アルカイダに協力した。サバール・ラール・メルマはタリバン軍の将軍で、トラボラからアルカイダ戦闘員が逃げるときに協力した。ワキールとメルマはアフガニスタンに送還され、ビュレチャルヒキ収容所で拘束されている。

hoonUS targets Salafist group allied with the Taliban in Kunar
BILL ROGGIO

■ジャコババード空軍基地付近、米が管轄[100819 Dawn]

ジャコババードの救援活動は、アメリカが航空基地を使用しているために、阻まれている。

水曜日に健康省のフシュヌード・ラシャリが、国会で驚くような発言をした。「ジャコババードで洪水の被害を受けている地域の救援活動は、アメリカの航空基地のせいで実行できないでいる」と、ラシャリが語った(中略)。「外国の保健チームが僻地の救援活動を実施しようとしたが、ジャコババードを含め、いくつかの被災地の近辺には滑走路がない」と、Health Emergency Preparedness and Response Centreのジャハンゼーブ・トラクザイが語った(中略)。

「アメリカ人たちはシャッバーズ航空基地から無人偵察機の攻撃をしているが、政府は国内の救援活動をするために、自国の基地さえ使用できない」とセミーン議員も本記者に語った。「政府が米国人たちに貸与している基地を、洪水で被害を受けた人々の救援活動のために使用するべきだと思う」(後略)。

hoonAirbase near Jacobabad under US control, Senate panel told
Imran Ali Teepu、ISLAMABAD

■パキスタンに対する米政策、洪水に影響される[100818 New York Times]

パキスタンの洪水のせいで、オバマが計画していたパキスタンに対する政策は、大きく打撃を受けた。人道的な被害が広がり、過激派たちはこれに追い打ちをかけようとしている。

オバマ政権は公的には救援活動を強調しているが、幹部関係者たちは長期的な戦略を考えることに専念している。ある関係者によると、今回の天災でアメリカとパキスタンの関係の悪化が予想され、アフガニスタンの戦争やもっと広い意味でのアルカイダに対するアメリカの戦いに、大きく影響する可能性があるという。

パキスタンの経済が大きく打撃を受けている今、オバマ政権はパキスタンに与える予定の75億ドルの援助を、もう一度考え直す必要が出てきた(中略)。さらに、今は抵抗勢力の一掃よりも洪水の救援活動をしている、大きく傾きつつある政府や軍と対処しなければならない。米関係者によると、パキスタン政府は危機のために「一触即発」の状態だという。そのためにタリバンたちが、食料や避難場所を提供することで、人々の心を勝ち取ろうとする可能性がある。

「治安に問題が生じていることは確かだ」と、別の関係者も述べた。「軍は洪水の救援活動に忙しく、対抵抗運動作戦を実施していない」。

(中略)今のところ、洪水で最も被害を受けた地域は、イスラーム過激派たちの温床だった地域でもあった。これらの地域では、地元政府はほとんど機能せず、軍が唯一の権力となっている(中略)。

パキスタンやアメリカの関係者によると、イスラーム過激主義の慈善団体が救援活動を行なっているという報道は、誇張されているという。洪水で抵抗勢力も被害を受けたことも、指摘される。過激派たちの小火器や爆発物が水に浮いていた、という報告もあった。

しかし両国の関係者は、再建や社会復帰の努力が遅れれば、タリバンやその他の過激派がこれを利用しようとすることは明らかだという。「本当の試練は、パキスタン政府が根本的なサービスを提供できるかどうかにかかっている」と、オバマ政権関係者が述べた。

今回の危機の参考となる事例はない。インドネシアのアチェでは、2004年の津波で17万人が殺害されたが、その後2005年8月に、独立派とインドネシア政府は和平協定を結んだ。地元の独立派組織と国際的なジハード組織の間には、大きな違いがある。

「もし洪水でパキスタンのパワー・バランスが崩れれば、過激派たちが有利になる」と、元諜報関係者のブルース・リドルが語る。

ザルダリ大統領は洪水の最中にヨーロッパに旅立ったために、パキスタン国内ですでに大きく非難されている(中略)。

「パキスタンと我々の関係のあらゆる局面、政治、経済、安全は、今回の歴史的な洪水のせいで、大きく変化する」と、ホワイトハウスでアフガニスタンとパキスタンを担当するダグラス・リュート将軍が語った。「現実に照らし合わせて、外交のあらゆるツールを、考え直す必要がある」。

hoonU.S. Strategy in Pakistan Is Upended by Floods
MARK LANDLER、WASHINGTON

Sniffed Out By Trail Dog 0-1, 2003 - 2010.