【2011年1月10日〜1月16日】


■アメリカ、パキスタンの望みに屈服[110112 Asia Times]

アメリカの副大統領のバイデンが今週イスラマバードに飛んだのは、ワシントンが、今始まろうとしている平和に向けてのアフガニスタンの動きから除外されたことに狼狽するとともに、不安を感じたためである。20日前からの急な展開に、ワシントンは困惑している。

バイデンがイスラマバードに飛ぶに至った理由は、12月24日のイスタンブールでトルコの大統領のアブドゥッラー・グルが、ザルダリとカルザイと5回目のサミットを開いたことに始まる。アンカラは3年前から率先して、ザルダリとカルザイの間を取り持ってきた。アメリカは何度も失敗しているが、トルコ人たちはカブールとイスラマバードを隣人としてある程度接近させることに成功してきた。

(中略)トルコは、トルコにタリバンの「代表本部」を置くことに積極的である。カルザイによると、この考えは「タリバンに近い高官」が発案したという。いずれにしてもイスタンブールで開催された3ヵ国会議でこの案が持ち上がり、トルコとパキスタンはこれを強く支持した。興味深いことに、タリバンも今のところこれを否認していない。

トルコ外務大臣は後に、「我々は最近あらゆるレベルにおいて、これらを実現する準備がある。トルコは注意深く成り行きを見守っている。我々はトルコで、アフガニスタン政府の望みを実現するさせるつもりでいる、トルコ国外で起きている出来事にも、貢献する準備がある」と述べた。

カルザイがイスタンブールに向けてカブールを出発する直前、アフガン平和委員会責任者のブルハヌッディン・ラッバーニをテヘランに送った。数日後、北部同盟のムハンマド・ファヒームもテヘランを訪れた。(奇妙なことに、モスクワの「アフガン問題」の専門家である元KGB将軍ビクトル・イヴェノフも、ファヒームと同時期にテヘランを訪れている。彼はロシアの、対麻薬機関の責任者である。)

カルザイは、アフガン内の対話を開始することに関して、イラン人たちに探りを入れた。しかしテヘランの立場はあいまいで、米軍が存在しつづけることにより、この地域が緊張していると主張しているだけである。ファヒームの訪問により、テヘランがまだ選択肢を残していることがわかる。アフガニスタンに対するイランのガソリン供給の問題からも、テヘランとカブールの間にまだある種の亀裂があることがうかがわれる。影響力のあるイランの議員アリ・ラリジャニは、カブールを近々訪問予定である。

テヘランへの旅に先立ちラッパーニは、政府主催のナンガルハルで開催された大きな地域平和ジルガで発言している。この会議には、タリバンが活動するパシュトゥーン族居住地域から、約800人の委員が集った。ラッバーニはタリバンに、次のように言った。「ここはあなたの国だ。アフガニスタンはあなたの国だ。もちろん誰でも過ちを犯す。間違いを修復するために、みんなで協力しなければいけない」。

ジルガでは、タリバンが社会に受入れるためには、イスラームの価値観に沿って行なわれなければいけないと発表した。「イスラームに沿って、物事を決める」と、ラッバーニが述べた。和解プロセスの中では、「米軍主導軍ではなく、仲間であるアフガン人と取り引きをする」ことをタリバンに許すことを決めた。

カルザイがイスタンブールから戻ると、いろいろなことが急速に起きた。先週の火曜日、ギラニ首相の招待を受けたラッバーニが、25人からなる委員会をイスラマバードに引き連れてきた。これはパキスタンとタリバン、そしてヒズビイスラームの態度が変化してことを示す。彼らはこれまで平和会議をばかにしていたからである。

事実、キアニ将軍が水曜日に、ラッバーにラワルピンディで会った。公式報道発表によると、「相互の関心事について話し合った」という。キアニが個人的にラッバーニと会ったことは、重要である。

ラワルピンディの会談は、アフガン国内の対話に、ラッバーニが重要な役目を果たすことを受入れたことを示す。さらに重要なのは、アメリカが関与しようとしまいと、近々対話が始まることをワシントンにほのめかしたことになる。パキスタンはカルザイとともに地域的な主導権を握り、ワシントンがこれに参加するかどうかは、ワシントン次第である。

パキスタンはアフガニスタンに対するペトラウスの戦略に批判的で、北ワジリスタンで作戦を行なおうことを拒否している。

カルザイが和平委員会にラッバーニを任命したことは、非常にいい選択肢だ。なぜならラッパーニとタリバンの関係は、1980年代のジハードの時代にまで遡る。パキスタンとラッバーニの関係は、さらに1970年代にまで遡る。ラッバーニはイスラーム宗教学者であり、パキスタン国内のイスラーム社会の中では影響力がある。特に、イスラーム神学者協会のような、イスラーム宗教政党とのつながりがある。ラッバーニはジハード時代には「ペシャワルの7人」の1人で、パキスタン軍や諜報組織とはさまざま取り引きを行なってきた。

ラッバーニはジャミアティ・イスラームを率いるタジークの指導者で、アフガニスタン問題にタジーク族を引き入れるためには、重要な人物である。タリバンに協力しているジャラウッディン・ハッカーニのような保守的な人間が、いつかアフガニスタンの政治の主流に参加できるようにすることができるとすれば、それも彼が架け橋となるからである。

つまりキアニがラッバーニを受入れるということは、パキスタンの政策に大きな変化があったことだ。

カブールとイスラマバードがアフガン国内の対話を率先するそのスピードに、アメリカは驚いている。アメリカは、タリバンと話し合うのはまだ時期尚早と考えている。特にラッバーニがイスラマバードを訪問した事実は、ワシントンを慌てさせた。アメリカは彼の国粋主義的・イスラーム主義的な立場から、ラッバーニをそれほど快く思っていない。彼のイランとの関係や、あからさまな反米感情も気になる。

突然さまざまなことが起きているにもかかわらず、ワシントンは「除外」されていると感じた。皮肉にも、テヘランと同じ舟に乗っていることに気づく。アフガニスタンの特使であるフランク・ルジェイロは木曜日に、出遅れまいと、イスラマバードに急行した。ルジェイロは丁寧に扱われ、キアニとも会った。しかし、パキスタンはタリバンと話し合いを開始しなければいけないという立場は変えなかった。

ルジェイロの旅に引き継ぎ、オバマ大統領はバイデン副大統領をイスラマバードに送った。オバマがバイデンを選んだのは、考えた上である。簡単に言えば、バイデンは、タリバンはアメリカの国家安全には脅威ではないく、タリバンとの話し合っても戦争を終結することはできないと言い続けてきた人間である。

いっぼうでペトラウスは軍事作戦を強化し、タリバンをアメリカにひざまずかせようとしている。ペトラウスは長期的な作戦を行なおうとしており、バイデンは早急になんとかしようとしている。

アメリカの治安組織内では、ペトラウスの、作戦が成功しているという主張を疑問視する者たちが増えてきた。オバマがバイデンをイスラマバードに送ることにしたことは、彼がまだ選択肢を残していることを示す。

ザルダリは今週ワシントンを訪問し、その間バイデンはイスラマバードに急行している。この不思議なすれ違いは、アメリカがいかにパキスタンとの関係悪化を気にしていることや、キアニが鍵を握っていることを認めていることを示している。パンジャーブ州のサルマン・タシール知事暗殺とパキスタン人社会の政治界にショックを及ぼした事件は、さらにワシントンの憂慮に拍車をかけるものとなった。

米幹部関係者の話として『ワシントン・ポスト』紙はバイデンの目的は次のようなものとしている。

☆アフガン戦争終結に関して、キアニと「見解や重要な問題に関する率直な意見交換」と「地域のための長期戦略」を話し合う
☆北ワジリスタンの作戦をすぐに開始させるために圧力をかける
☆戦争に協力することと引き換えに、パキスタンが必要としていることや期待していること、要求に答える
☆軍、諜報、経済面に、新たな援助を提供する
☆パキスタンと一緒に、アフガン側の軍の存在を強化し、アフガニスタンにおけるインドの活動に関してパキスタンと諜報情報を共有する

ことだという。

米政権の見解に大きな変化があった。オバマが和平会議に参加し、タリバンと和解のための話し合いをするにおいて、パキスタンが「決定的」な役割ではないにしても、重要な役目を担うことを認めたことを意味する。

ワシントンは不平をいわずに我慢しているが、理想的にはパキスタンがアメリカのやり方に追随しすることを望んでいた。しかしもしアフガニスタン、パキスタン、トルコ(そして場合によってはイランも)などが主導してアフガン国内の和平会議が開始した場合、または実際にこれが動きだした場合、アメリカは面目がつぶれ、オバマ政権は、アフガン国民もこの地域の権力者たちが誰も望んでいない戦争を続けることができなくなってしまう。

ohUS bends to Pakistan's wish 
M K Bhadrakumar 
Sniffed Out By Trail Dog 0-1, 2003 - 2011.