【2011年2月14日〜2月20日】


■ラホール発砲事件で外交危機を招いた米国人はCIAスパイ[110220 Guardian]

ラホールで2人の男性を射殺してパキスタンとアメリカとの間の外交危機を起こした米国人は、当時仕事に就いていたCIA工作員だった。

レイモンド・デイビスは1月25日に、赤信号で停車中に2人の男が乗った車に妨害されたために、グロック・ピストルを発砲した。この事件に関して、さまざまな憶測が飛んでいる。

(中略)アメリカとパキスタンで行なったインタビューの結果、『ガーディアン』はこの36歳の元特殊部隊兵は、CIAに雇われていたことがわかった。「明白なことだ」と、あるパキスタン人諜報関係者が述べた(中略)。

パキスタンの検察官は、このスパイは力を誇示して10発撃った後に車から出て、逃走しようとした1人の背中に2発撃った。男性の遺体は、バイクから30フィート離れた所にあった。

(中略)パキスタン政府はデイビスがCIAに雇われていることを知っているが、アメリカから彼を釈放するように圧力をかけられているために、沈黙している。

(中略)3番目の男性が、デイビスを救出しようとしたアメリカの車に追突された。パキスタン人関係者は、車に乗っていたのはCIA関係者だと見ている。デイビスが住んでいた家から来て、武器を所持していたからである。

アメリカは、2人の男性の取り調べを行ないたいというパキスタンの要求を退け、パキスタン人諜報関係者によると、2人はすでに国外に出たという。「彼らはヘリコプターを使い、すでにアメリカにいる」という。

『ABCニュース』が、男たちはデイビスと同じ外交官ビザを持っていたと報道した。米諜報関係者が外交官ビザを持っていることは、良くあることだ。

(中略)ワシントンは、デイビスの役目について沈黙している(中略)。あるパキスタン人関係者は、デイビスはXeに雇われていたようだと述べた。

(中略)アメリカのメディア多数が、デイビスがCIAに雇われていたことを掴んでいるが、オバマ政権から公表しないように要求されている。デイビスの妻と話した『コロラド・テレビ』が、このことに言及している。妻はワシントンのある電話番号を挙げたが、それはCIAの番号であることがわかった。コロラド・テレビのウェブサイトは、米政府に依頼されてCIAについて言及している部分を削除した。

パキスタンの諜報関係者の話として、死亡した2人がパキスタン人諜報関係者であるとする報告もある。2人はISIの工作員で、デイビスが「赤い線」を越えたために、追跡するように命じられていたという。

警察幹部が、2人は強盗だったというアメリカの主張を認めているが、彼らが諜報組織と関係があることは否定しなかった。

あるISI関係者は、死亡した男たちはスパイ組織に雇われてはいなかったと述べたが、CIAとの関係に支障が出たことを認めた。「我々は主権国家だ。彼らが我々と仕事をしたいのなら、対等であることを根底に、信頼関係を築かなければならない。傲慢であったり、要求ばかりではいけない(後略)。

hoonAmerican who sparked diplomatic crisis over Lahore shooting was CIA spy

■ハキームッラー生存[110219 Longwar Journal]

パキスタンのタリバン運動責任者のハキームッラー・マフスードが、タリバンの父と言われていた元諜報関係者の処刑を指示するビデオが浮上した。ハキームッラーの出現で、昨年秋にアメリカの無人偵察機で彼が殺害されたという報告が間違っていたことが証明された。

パキスタン人タリバン指導者が、パキスタンのISI幹部だったイマーム大佐の処刑場面に登場した。

今日放映されたビデオで、地面に座っているイマーム大佐の後ろにハキームッラーが立っている様子が映されていた。イマームは立つように言われ、その後ハキームッラーの部下が冷厳にイマームを数回撃つ。ハキームッラーと武装した男たちが、朗誦している様子が映る。

(中略)ハキームッラーのビデオは、2010年の夏以来初めてである。彼は北ワジリスタンで部下のカリ・フセイン・マフスードと一緒に、去年の10月に無人偵察機の攻撃で死亡したと噂されていた。タリバン報道官のアザム・タリークは、初めからハキームッラーとカリ・フセインは生存していると主張してきた。今年の1月、米国務省はカリ・フセインをグローバルテロリストのリストに入れ、彼は生存していると述べていた(後略)。

hoonHakeemullah Mehsud alive, shown on tape executing former ISI officer
BILL ROGGIO

■パキスタン人タリバン、引退スパイ殺害を主張[110219 AP]

パキスタン人タリバンが土曜日に、以前アフガン人タリバンを保護し、ソ連がアフガニスタンを占領していた時代にアメリカに味方した、退役パキスタン人スパイを射殺したと主張した。

パキスタン政府は1月に、元スパイのスルタン・アミール・タラールはパキスタン北西部で過激派に拘束中に心臓発作で死亡したと主張していた。タリバンの主張が真実だとしたら、イスラーム過激派を公然と支持していた人間の殺害により、パキスタン人タリバンが国家に挑戦する意思の強さを主張することになる。

「我々は彼を殺害した。射殺した」と、タリバン報道官のアーサヌッラー・アーサンが携帯電話で語った。

(中略)アーサンは土曜日に、政府が組織の要求を飲まなかったために、パキスタン人タリバンがタラールを射殺したという。「我々は何度も政府を説得した。彼らは我々の要求に耳を貸さなかった。その結果彼を射殺した」という。

パキスタンの民放放送『Geo TV』は、タラールが射殺された場面だというビデオの一部を放映した。ビデオクリップには、パキスタン人タリバン指導者のハキームッラー・マフスードも映っていた。しかし残酷であるとして、実際の射殺場面は放映せず、本物かどうかは明らかではない(後略)。

ohPakistani Taliban claims it killed retired spy
RASOOL DAWAR、PESHAWAR

■パキスタンの裁判官、レイモンド・デイビスの運転手逮捕を命じる[110218 BBC]

パキスタン人裁判官が、米政府関係者の発砲現場で通行人に追突した、米大使館の車輛の運転手を逮捕するように命じた。

車は、レイモンド・デイビスが自分を強奪しようとしていたという2人の男性を射殺したあと、彼の救助に直行する途中にオバイドル・レーマンに追突した(中略)。レーマンの家族が、運転手の逮捕を依頼する陳述書を提出したあと、裁判所の命令が下った。

パキスタン政府はすでに大使館の車と運転手の身柄の受け渡しを求めているが、アメリカはまだこれに答えていない。

(中略)無実な通行人であったレーマンの死に、民衆は憤慨している。彼の死をめぐる状況は、不透明である。

カラチの『BBC』特派員サイード・ショアイブ・ハッサンによると、目撃種の報告や調査から、2番目の車がデイビスを救出するために現場に直行したという当初の報告と違ってることがわかってきたという。

特派員によると、調査の結果、トヨタのランドクルーザーは事件が起きた当時デイビスと一緒だったことが明らかになった。目撃者の報告によると、デイビスは現場で、トヨタを誘導して道を確保していたという。

金曜日のラホール高等裁判所の命令は、パンジャーブ政府に、「この件を調査するために、法に従ってあらゆる必要な手段をとるように」命じたと、レーマンの家族の弁護士アサド・マンズール・ブットが述べた。

家族によると、警察は領事館の車を回収して運転手を逮捕するために、何の努力も行なわれていないという。

裁判所がパンジャーブ政府に調査を命じているが、事件は連邦政府が取り扱っている。事件が起きた現場であるパンジャーブの州政府と、デイビスの身分を確認する仕事を負う中央政府との間には、亀裂があるようだ。

木曜日に裁判所は、デイビスが外交官特権があるかどうかの決断する期限を、3月14日まで延期した(後略)。

hoonPakistan judge orders Raymond Davis driver arrest

■パキスタンの裁判官、米国人の車の運転手に逮捕状[110218 AP]

金曜日に裁判官が、パキスタン人を追突して殺害したアメリカの車の運転手を逮捕するように命じた(中略)。

パキスタンの警察が、アメリカの車に乗っていた人間を逮捕する確率は低い。米国人たちは、車を運転していたのは米大使館職員であること以外は、語っていない。

裁判官の命令は、アメリカに運転手を引き渡すように圧力をかけるものである。しかし、交通事故に関与していた米国人が、まだパキスタンにいる可能性は少ない。トラブルに巻き込まれた米大使館職員は、直ちに出国するのが常である。

運転手がパキスタン人であった可能性もある(後略)。

hoonPakistan judge orders arrest of US car's driver
BABAR DOGAR、LAHORE

■ラホールの発砲事件ーー答えのない疑問[110217 BBC]

レイモンド・デイビスは外交官であろうか。

(中略)デイビスは、外交スキルのために雇われたのではない。彼はもっと実践的な仕事についていた。米大使館によると、「事務と技術部門」に属していたという(中略)。

彼はスパイであろうか。

多数のパキスタン人はそう思っている。彼がなぜ車にグロック・ピストルがあり、ラホールをうろうろしていたかの説明がない。大使館スタッフ、とくに欧米の大使館員は、地元警察に何をしているかを報告しなければならない。パキスタンでは過激派に狙われる可能性が高いからだ。米大使館におけるデイビスの部署は実はCIAであると、パキスタンでは見られている。デイビス自身が、米政府に雇われてたコンサルタントだと述べている(中略)。

デイビスは殺人で起訴されるか。

もしかしたら。パキスタン政府が、どの程度彼を罰するつもりがあるかによる。彼がスパイだとしても、彼に外交官特権がないとは限らない。諜報組織が外交官の職員としてスパイを派遣することは、よくあることだ。パキスタン人と米国人の「外交官」も、同じような状況下で逮捕されている。その都度、二度と戻らないことを条件に、直ちに出国を命じられる。ウィーン条約に調印したほとんどの国家にとって、これが与えられる最大の罰である。

デイビスは銃を所持してもよかったのか。

法律上は内務省が発行した許可書を持つパキスタン市民だけが、武装できる。外国人は武器を持つことはできない。大使館内の兵士と警備員だけは別だ。パキスタン国籍保持者も、外国人も武装しているところを逮捕されれば、パキスタンの法律のもとで起訴され、罰金を課された上に6ヵ月から2年間投獄される。デイビスもこの法律のもとで、起訴されている。

自己防衛だったか。

デイビスと米大使館の当初の主張はそうである。しかし警察の調査の結果、発砲された2人は、そのときデイビスから遠ざかろうとしていた。2月にラホール警察は、2人の男の遺体にあったピストルの引き金には、指紋がついていなかったことがわかったと発表した。さらに弾丸は弾倉に残り、薬室にはなかった。つまり2人はデイビスを撃とうとはしていなかった。つまりデイビスの主張のように、2人が強盗で、そのうちの1人に銃を頭に突きつけられたという主張は信憑性がない。さらに検死解剖から、2人は背後から撃たれていることがわかった。つまりデイビスを撃とうとしていたのではなく、デイビスから去ろうとしていた。

デイビスが撃ったパキスタン人は誰だったか。

デイビスは当初、2人は強盗だと述べている。大使館も同じ意見である。しかし、男たちには犯罪歴のないラホールの住民であった。ライセンスを受けたピストルを持っていた。つまり彼らが強盗であった可能性もある。しかしラホールの治安関係者は、地元の諜報組織のパートタイムまたは下級工作員だったと述べている。彼らがデイビスに関して何をしていたかは明らかではないが、偵察活動が致命的に失敗した可能性があるという。パキスタンの諜報組織は、外国の大使館員を追跡したり監視したりするのが常である。

2台目の車とその犠牲者は?

3人目の犠牲者は、無実な通行人で、デイビスを救出に来たと言われていた車に追突された。大使館の車が現場にこれほど早く着いたということは、ラホールの地理を知っている人間にとっては驚きである。車は数分間で到着したことになるからだ。12キロを40分かかるところを、5分以内で到着したとこになる。しかし2台目の車に関して、新たな情報が出てきた。このトヨタのランドクルーザーは、事件当時デイビスと一緒だったというものだ。目撃者によると、事件があったとき、デイビスはトヨタを引率して道の安全を確保していた。その後の展開を考えると、デイビスは「護衛」をしていて、トヨタの中の者または物を「守る」ために、発砲した。車内は色付きガラスのために見えなかった。車が埃の中に消えると、デイビスは冷静に自分の車を止めて、逮捕される。地元のテレビ映像には、2台目の車が事件後デイビスから離れて行く様子を映している。パキスタン政府はランドクルーザーと運転手の引き渡しを求めているが、アメリカはこれに応じていない。

smellQ&A: Lahore shootings - unanswered questions

■アメリカとパキスタン、対立[110214 Asia Times]

(前略)デイビスが拘束された件は、辛抱強い裏外交を行なえば解決したはずである(中略)。しかし、ワシントンは力による外交をとり、面と向かってパキスタン政府に圧力をかけた(中略)。ヒラリー国務長官がミュンヘンの治安会議でパキスタンの陸軍参謀長のキアニ将軍に忠告したにもかかわらず、パキスタンはラホール裁判所でデイビスを殺人罪で起訴し、取り調べのためにさらに14日間拘束することを決めた。

今回の内閣改造で更迭されたクレイシイは、当時クリントンに「デイビッドが外交特権を持っていることを公言するように」圧力をかけられたが、「この件に関して事実に反することだったために拒否」し、大きな議論を引き起こした。

「ワシントンがデイビスに対して主張している特権は、外務省の公的な記録には記載されていない」と述べ、ワシントンは「もし要求が通らないのであれば、ヒラリー・クリントンは2月6日のミュンヘン会議で私に会わないと脅迫した」と付け加えた。クレイシイは外相を更迭された理由を、デイビスに対して強い態度にでたためと考えているようだが、もう手遅れだ。

なんでこのような賭けに出たのか。デリーで注目しているのは、高度な訓練を受けた工作員であるデイビスが、1時間以上も諜報活動のために彼の車を尾行していた2人のバイク乗りを、彼らの素性を熟知したうえで殺害したことである。元特殊部隊兵士だったデイビスは、このような目立った諜報活動は身の危険を伴うものではなく、単に脅かしや妨害であることを知っていたはずだ。結局デイビスは「尾行」を振り払えないことがわかったある時点で、冷静さを失なった。

パキスタン政府はメディアに、政府はデイビスが「パキスタン人タリバン」と接触していることを知っていたとリークしている。『ワシントン・ポスト』はパキスタンの諜報関係者の話として、2人のバイク乗りはデイビスに、彼が「赤い線(パキスタンの国家利益に反する何かをしようとしているという意味)」を越えていたことを忠告していたという。

明らかにアメリカは、パキスタン側は公に認めている以上のことを知っていると信じており、もしデイビスが取り調べの結果自白でもしたら、大変なことになるはずだ。だからアメリカがデイビスの身分やパキスタンで何をしていたかに関して、矛盾のある発言を行なっている。

アメリカの反応をみると、デイビスが拘束されたことで、ホワイトハウスはあわてていることがわかる。(中略)それではデイビスは何をしていたか。イスラマバードの反応から、政府には選択肢がないことがわかる。

パキスタンは長い間、誰がいわゆる「パキスタン人タリバン」をそそのかし、パキスタン軍に打撃を与え、パキスタン国家を弱体化させているのか疑問に思って、いた。

パキスタン人は、これを常にインド人のせいにしていた。しかしパキスタン政府機関が攻撃されると、特に軍やISIが標的になりはじめると、イスラマドードの疑問が深まった。とくに元アフガニスタン諜報組織責任者のアムラッラー・サレーとアメリカの治安組織との深い関係を熟知していたパキスタンの組織にとっては、なおさらだ。

パキスタンで起きていることは、テロリズムのある種の「反動」である(中略)。パキスタン軍と諜報組織は、「パキスタン人タリバン」という名目で勝手に活動しているさまざまな組織があることを、とうの昔から知っている。アフガンとパキスタンの関係改善に大きな役目を果たした、諜報組織責任者のアムルッラー・サレーがカルザイ大統領に更迭された数ヵ月あとも、ワシントンはサレーを英雄として讃えていた。

デイビスはパキスタンにとっては、興味深いチェスボードの上のいくつかの点を結ぶ「欠けた駒」を提供するはずだ。ある時点で母国に帰るだろうが、それまでに彼はもはや重要ではなくなり、パキスタンはアメリカの地域的政策に関してさらに理解を得ているはずだ(後略)。

smellUS and Pakistan square off
M K Bhadrakumar

Sniffed Out By Trail Dog 0-1, 2003 - 2011.